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四季折々に思うこと Ⅱ-21

踏花舎 倉橋みどり

「山帰来(さんきらい)」 イラスト・榎森彰子

陀羅尼助丸とは、おなかが痛くなったり、胃が重くなったりしたときに飲む、真っ黒な丸薬の名前で、奈良ではおなじみの漢方薬だ。「だらにすけ」と呼ぶ人が多い。
製造メーカーは多く、奈良では、洞川や吉野山を車で走っていると、いろいろな会社の「陀羅尼助丸」の看板が目に飛び込んできて、お土産屋さんにも並んでいる。

主な原料は、黄柏と呼ばれるキハダの樹皮。
ちょうど仁丹ぐらいの大きさで、わたしが愛用しているのは、一回分の20粒ほどが一包になっているもの。
においはなく、苦さもほとんど感じない。

幼いころは、おなかの薬といえば正露丸。
あの独特のにおいを嗅ぐだけで腹痛がましになった気がするほどだった。

奈良に住むようになって、陀羅尼助丸に宗旨替えしたのは、インドへの長期出張を数週間後に控えた学者さんから、「胃腸を整えるために、毎日陀羅尼助を飲んでいる」と聞いたのがきっかけだったと思う。
「半信半疑だったけど、これのおかげで、前のインド出張も乗り切れたんですよ」。
奈良育ちではない、東京の博物館から奈良の国立博物館に赴任してきた先生のことばには説得力があった。

三年前に初めてインドを旅したときは、陀羅尼助丸を飲んで備えた。
そして、一度もおなかをこわさずに済んだ。

五臓六腑に残る暑さでありにけり   みどり


            

倉橋みどり

奈良に暮らし、奈良をこよなく愛するフリー編集者・文筆家。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』など。奈良の歴史・文化を編集発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。武庫川女子大学非常勤講師。奈良女子大学なら学研究センター協力研究員。俳歴33年の俳人でもあり、NHK文化センターほかの講師、俳人協会幹事を務める。