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四季折々に思うこと Ⅱ-19

踏花舎 倉橋みどり

イラスト・榎森彰子

東大寺の近くに仕事場を持つようになって、毎日のように奈良公園を通り過ぎ、鹿のいる風景が当たり前になった。
季節によって、毛並みが変わることも知った。

俳句の季語で「鹿の子(模様)、子鹿」は夏。
冬から春にかけては、お世辞にもきれいとは言い難い。
ぼさぼさの毛並みに、鹿せんべいを食べる顔もどこか冴えない。

ところが、5月の終わりごろになると、いっせいに、明るい茶色に白い模様を散らした鹿の子模様の群になる。
色合いといい、つやつやの毛並みといい、本当に美しいのだ。
袋角を誇らしそうに立てる牡鹿。
おだやかな表情の牝鹿。
ちょうど子鹿も生まれるころで、毎日のように鹿を見ている私でも、ついついシャッターをきりたくなる場面にでくわす。

大好きな写真家・入江泰吉さんの写真に、新緑の興福寺境内で、牡鹿、牝鹿、その間の子鹿が座って、レンズのほうを向いている一枚がある。「親子鹿」というタイトルがついている。
鹿に詳しい人によると「牡鹿に『家族』という感覚はないだろうからねえ」とのこと。
本当の「親子」かどうかは怪しいが、決定的瞬間に入江さんも慌ててシャッターを切ったのだろうか。
よく見ると、子鹿の顔が少し、ブレている。

鹿の子や見つめてをれば見つめらる  みどり


            

倉橋みどり

奈良に暮らし、奈良をこよなく愛するフリー編集者・文筆家。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』など。奈良の歴史・文化を編集発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。武庫川女子大学非常勤講師。奈良女子大学なら学研究センター協力研究員。俳歴33年の俳人でもあり、NHK文化センターほかの講師、俳人協会幹事を務める。