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四季折々に思うこと Ⅱ-35

踏花舎 倉橋みどり

百両(からたちばな) 
イラスト・榎森彰子


奈良市の飛火野を南に行けば、高畑に入る。
文豪志賀直哉が居を構えた、閑静な住宅街で、その一角に新薬師寺というこじんまりとしたお寺がある。大好きなお寺だ。

本尊は薬師如来坐像(平安時代・重要文化財)。
このお寺は、奈良時代、東大寺の大仏様を造立したいと発願した聖武天皇が病を得た際、光明皇后が建てられた。
薬師如来さまのお顔は、二重でぱっちりとした目が特徴的であることから、このときの天皇の病は眼病ではなかったかともいわれる。

「新薬師寺の新というのは、霊験あらたかという意味なんですよ」
と教えてくださったのは、中田定観ご住職。
いつもおだやかな笑顔で迎えてくださる。

そして、薬師如来さまのまわりを、おのおのに違うポーズを決めながら立っているのが、天平時代の十二神将だ(補作を除く十一体は国宝)。
目には見えない眷属(けんぞく)をひとり7千ずつ率いているのだという。
髪は逆立ち、怒りをあらわにした表情で、順にゆっくりと拝むうちに、心の中の迷いが晴れてゆくようだった。

十二神将は灰色がかったお姿だが、造られた当時は、極彩色に彩られていた。
「衣のひだの奥など、よく見ると、金箔や鮮やかな色彩が残っていますよ」と、これもご住職からうかがった。なんときらびやかな姿だっただろう。

お堂に夜の帳が下りると、彼らは動き始めるのではないかなどと想像しながら、静かにお堂の外へ出た。



八一歌碑枯野を背負ふやうに建つ みどり


            

倉橋みどり

奈良に暮らし、奈良をこよなく愛するフリー編集者・文筆家。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』など。奈良の歴史・文化を編集発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。武庫川女子大学非常勤講師。奈良女子大学なら学研究センター協力研究員。俳歴33年の俳人でもあり、NHK文化センターほかの講師、俳人協会幹事を務める。