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四季折々に思うこと Ⅱ-33

踏花舎 倉橋みどり

「コスモス」 イラスト・榎森彰子

奈良の秋を彩る行事といえば、奈良国立博物館の正倉院展である。
奈良に暮らすようになった当初は、「秋の正倉院展」と言うのだから春にも行われるのだろう、会場は正倉院に違いない…
などと誤解ばかりだった。  

初めて足を運んだときのことも正直言ってよく思い出せない。
そんな私が、正倉院展を紹介する記事を書かねばならなくなった。
奈良で仕事をするようになった14年ほど前のことだ。
そのとき取材に応じて下さったのがN先生でよかった、と今でも思うことがある。

真面目そうな、いかにも研究者という第一印象だったN先生が、基本的な受け答えのあと、「正倉院の宝物は何がすばらしいって、伝世品だということです。発掘されたものじゃない。つまり1300年近く人から人へと大切に守られてきたものなんですよ」と熱っぽく語ってくださった。
へえ、そうなのか、すごいなと心から思えるほどに。
その年から私は、毎年熱心に正倉院展に足を運ぶようになった。

この夏の終わり、同博物館ではコロナ禍で開催が大幅に遅れた特別展「御大典記念 よみがえる正倉院宝物 再現模造にみる天平の技」が開催された。
明治時代から始められた正倉院宝物の模造製作の成果はどれも素晴らしいものだった。
きっと秋の正倉院展とセットで観覧すべきものとして企画されたのだと思う。
さて、今年の正倉院展はどんな形で開催されるのか。気になっている。

爽やかや勅封剪る音したやうな     みどり


            

倉橋みどり

奈良に暮らし、奈良をこよなく愛するフリー編集者・文筆家。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』など。奈良の歴史・文化を編集発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。武庫川女子大学非常勤講師。奈良女子大学なら学研究センター協力研究員。俳歴33年の俳人でもあり、NHK文化センターほかの講師、俳人協会幹事を務める。