topics トピックスTOPICS

四季折々に思うこと Ⅱ-14

踏花舎 倉橋みどり

春といえば、東大寺二月堂の修二会だ。奈良時代から1260年以上、一度も途絶えることなく続けられてきた。
3月1日から15日未明まで、厳しい行が重ねられる。
その舞台となる二月堂のご本尊は大小ふたつの十一面観音様。大小ともに「絶対秘仏」。
僧侶ですらその姿を見ることは許されない神秘的な存在だ。

別名「お水取り」とも「おたいまつ」とも呼ばれる。
「お水取り」は、お堂のすぐ下にある若狭井から観音様にお供えする「香水(こうずい)」を汲むのが、この行法のクライマックスになるため。「おたいまつ」は、暗くなってからお堂に上る僧侶(この行では練行衆と呼ばれる)の足元を照らす松明のこと。
本来の用が済んだ松明を、練行衆ひとりにひとりついてお世話をする童子さんが欄干で振り回す。
火の粉を浴びたり、燃えかすを持ち帰れば、無病息災になるとは、人々の間でいつしかささやかれるようになった民間信仰である。

お堂には、造花の椿を本物の枝に挿したものが供えられる。
京都の有名な染司よしおかで、丁寧に染められた紅色、黄色の和紙を使い、練行衆がひとつひとつ手作りした椿は、素朴だが、なんともいえない味がある。
この椿は、満行の後、お供えをした者などに下げ渡される。
わたしの手元にも一輪の椿がある。煤で薄汚れているからこそ美しい、とっておきの宝物である。

            

            二月堂より一輪届く椿かな   みどり

「椿」 イラスト・榎森彰子

倉橋みどり

奈良に暮らし、奈良をこよなく愛するフリー編集者・文筆家。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』など。奈良の歴史・文化を編集発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。武庫川女子大学非常勤講師。奈良女子大学なら学研究センター協力研究員。俳歴33年の俳人でもあり、NHK文化センターほかの講師、俳人協会幹事を務める。