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四季折々に思うこと Ⅱ-31

踏花舎 倉橋みどり

「すずらんひおうぎ」 イラスト・榎森彰子

奈良に森川杜園(もりかわ・とえん/1820・文政3年~1894・明治27年)という人がいた。今年生誕200年という節目に当たる。
奈良人形(一刀彫)の名人であり、絵師、狂言師としても活躍した。
草鞋を三足も履けば、どれもものにならないような気がするが、杜園は三芸をすべて職としたという。
奈良では古代に注目されることが多く、近現代の歴史や人物の調査も評価も後回しにされることが多いように思う。
だが、杜園については1993年に奈良県立美術館で「森川杜園展~19世紀奈良の異才 没後100年記念」が開催され、同館での2018年「伝統工芸企画展」でも大きく取り上げられた。
また、2012年には評伝小説『芸三職 森川杜園』(大津昌昭著・燃焼社)も刊行。じわじわと知る人が増えているように思う。

この6月、かつて杜園が住まいした家の二軒隣にある奈良市の施設「奈良町にぎわいの家」で大津氏の講演会と個人蔵の作品などの展示があった。
心惹かれたのは掛け軸の「群鹿図」。
50頭以上の鹿たちが、あるものは駈け、あるものは座り込み、あるものはこちらにつぶらな瞳を向けている。
むうっと鹿のにおいと体温とが伝わってきた。
「興福寺薪御能図」にも目が釘付けになった。
顔も背格好も一人ひとり違って、杜園自身も紛れ込んでいるという。

さみだれの先頭をゆく牡鹿かな     みどり


            

倉橋みどり

奈良に暮らし、奈良をこよなく愛するフリー編集者・文筆家。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』など。奈良の歴史・文化を編集発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。武庫川女子大学非常勤講師。奈良女子大学なら学研究センター協力研究員。俳歴33年の俳人でもあり、NHK文化センターほかの講師、俳人協会幹事を務める。