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四季折々に思うこと Ⅱ-29

踏花舎 倉橋みどり

「小デブのももちゃん」 イラスト・榎森彰子


奈良の街から観光客が消えた。
新型肺炎の感染拡大は止まらず、ひっそりとした商店街、閉館の博物館や美術館。
ゴールデンウイークが近づくと、興福寺、法隆寺、東大寺……と大きなお寺が次々と拝観の停止や制限を決めた。
僧侶や関係者のみなさんにとってもきっと苦渋の決断だと思うから、しばらくお参りは控えようと思う。

東大寺の近くにある仕事場へも、本当は出勤自体をしないほうがいいのだろうが、猫が住み着いているのを理由に毎日のように顔を出している。
正午になると聞こえてくる鐘は、興福寺からだ。
今日のお昼ご飯は何にしよう?
この界隈には小さな飲食店が多く、それぞれにテイククアウトを始めたので、毎日悩む。
今日はカレー屋さんのスパイス料理のお弁当にした。

3月以降、私のスケジュール帳には×印が増えていき、とうとう5月末までほとんど白紙になった。
どうしよう。考えれば考えるほど不安に押しつぶされそうになる。
でも、こんなに時間がたっぷりあるのは久しぶりだ。
やりたいこともいろいろとある。
まるで山の中で車がガス欠になってしまったような今。
もっと刺激を、もっと新しいことを……と何かにとりつかれたように走っていた、あんな日々はもう戻ってこない、いや私自身は戻りたくないと思う。
再び走り出すことができるようになったとき、どんな道を行くのかをしっかり考えておかねば、と思うのだ。

明日は来るきっと来るはず山笑う   みどり


            

倉橋みどり

奈良に暮らし、奈良をこよなく愛するフリー編集者・文筆家。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』など。奈良の歴史・文化を編集発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。武庫川女子大学非常勤講師。奈良女子大学なら学研究センター協力研究員。俳歴33年の俳人でもあり、NHK文化センターほかの講師、俳人協会幹事を務める。