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第1回 金色のパワー

デジタル復元師 小林泰三

©小林美術科学

私は、コンピューターによるデジタル画像処理で、色あせた日本美術の色をもとに戻す仕事をしている。

代表作としていつも挙げるのが、東大寺大仏殿。NHKのBS-hiで「東大寺 よみがえる仏の大宇宙」が初めて放送されたのが2006年12月。もう10年以上も前になる。

現在ではすっかり色がなくなり、黒くなっているが、もともとはどんな姿だったのか……。大仏の土台構築から大仏殿完成に至るまでの調査、推察、そして実制作の様子をコンピューター・グラフィックスを駆使して紹介し、創建当時の色彩世界にこめた聖武天皇の情熱や当時の人々の驚愕に想いを馳せる、という内容だった。

本尊の大仏は、正式には盧舎那仏、あるいは毘盧舎那仏ともいう。表面は金を水銀を媒体にして銅に付着させた金メッキで、ピカピカしていたというから、今では想像もつかない姿だった。

コンピューターの中の作業で、色のない張りぼて状態の大仏に、金色の情報を設定する。すると、見たこともない姿が立ち現れた。反射する黄金の輝き。なんというパワーだろう。この輝きは、慰めというより発奮である。金色によって張りぼてに命が宿った。

「古都に行くと落ち着く」「わびさびこそ日本文化」と感じている人は、もうここからして拒絶反応を示すかもしれない。でも大仏殿内は、この金色パワーだけではない。他の部分ももともとは豪華絢爛、むせかえるほどの色の氾濫、ド派手で、眩いばかりの世界が展開されていた。

しかし考えてみれば当たり前のことである。わびさびの概念が生まれたのは室町時代ごろで、奈良時代は大陸文化の影響を直接受けていた上に、色があせるほどに時間も経過していなかった。つまり、今も元々の姿を大切にする東南アジアの寺院で見られるような、金ピカ仏像だったのだ。

四季の豊かな自然の、優しい彩に慣れていた万葉の人々。彼らの目にこの鮮烈な色彩が突如飛び込んできたのだから、さぞかし度肝を抜かれただろう。そして、光るエネルギーを浴びて元気をもらったかもしれない。


小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。大学卒業時に学芸員の資格を取得。2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。