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第8回 北斎が、CGを駆使できたら

デジタル復元師 小林泰三

凱風快晴
夕刻焼峰
黄昏紫雲
天ノ川黒不二
星海登龍
来迎好日

デジタル復元は、現代に伝わっている貴重な美術品、あるいは貴重な美術品のスケッチなどを利用して、もともとの姿を再現するものである。
それをすべてコンピューターで行うので「デジタル」とつく。
しかし、それとは似ているものの、ちょっと傾向の違う復元と言うか作品を手掛けたことがある。

普通のデジタル復元は、変な言い方になるが、気持ちとしては私が過去に行って絵師になりきって作品を描くというイメージがしている。
しかし、もう一つの新しい傾向の復元は、昔の絵師に現代に来てもらって描かせたらどうなるか、という趣向なのである。

来ていただく絵師は、あの葛飾北斎。
北斎がコンピューターを駆使して、通称「赤富士」で有名な「富嶽三十六景 凱風快晴」をデジタル画像処理し、色々なバージョンをつくったらどうなるか、という想定で、連作をつくってみたのだ。
題して「富嶽一日六景」。

「凱風快晴」は午前中の姿とされ、それ以降の、夕方「夕刻焼峰」、夕暮れ「黄昏紫雲」、真夜中「天ノ川黒不二」、明け方「星海登龍」、日の出「来迎好日」、の5パターンを制作し、並べて展示した。これは、渋谷西武デパートの画廊で陳列された商品である。
北斎が本当にパソコンで画像処理ができたら、きっともっともっと大胆に使ったに違いない。
だがこちらとしても、めちゃくちゃに適当に描くわけにもいかないので、「北斎漫画」や、他の北斎の手による肉筆画なども参考にして、画面構成を行っている。

明け方「星海登龍」は、まだ暗い星空を竜が登っていくという構成だが、北斎の晩年の肉筆画で、実際に富士を渡っていく龍が描かれた作品がある。
ただ、天の川が龍の形になって登って消えていく、というアレンジが加わっている。
また、日の出「来迎好日」の放射線状の太陽光の旭日表現も、実際に他の作品にある表現になっている。
タイトルもそれなりに凝った。
注目してほしいのは題名の脇にある言葉。「北斎為一ヒュウチャリング」となっている。

長生きして最後の最後まで表現への探求心を持ち続けたという北斎が、さらに探求の道具を手にしたとき、本当はどんな表現を目指しただろうか。
あの有名な大波を、アニメのように動かして、水しぶきを降らして、人々を驚かせたかもしれない。

写真提供・小林美術科学



小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。
大学卒業時に学芸員の資格を取得。
2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。
著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。