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第6回 追い続けた花の宴

デジタル復元師 小林泰三


©小林美術科学

私がデジタル復元師という仕事を始めたときから、いや、それ以前の印刷会社にいたころからずっと
手掛けている作品がある。狩野永徳の弟、狩野長信が手掛けた国宝「花下遊楽図屏風」である。
醍醐の花見の様子を描いているという。
3月にあった体文協の京都ツアーで、長岡京の「錦水亭」にて、この屏風をデジタル復元した右隻を展示してご紹介した。
実はこの屏風の右隻は、ジグザグした6枚のパネルのうち、真ん中の2枚だけが関東大震災によって失われてしまった。何が描かれていたのかは、残された白黒写真で分かるが、しかしこのままでは色が分からない。それを復元することから、私とこの作品との関わりが始まった。

復元は無事に終了し(実は、一度復元した数年後に、色のメモが発見され二度復元している)、この作品からいったん離れたのだが、その後に賞道(※1)が始まり、制作された当時の鮮やかな色を戻し、そのレプリカを、制作された当時と同じ環境と方法で鑑賞するという活動を始めた。そこで気がついたのだ。
花下遊楽図屏風は、失われた部分が現在に伝わったとしたらこうだった、という汚れた状態を復元したので
あって、賞道に使えるような、制作された当時のきれいな色ではなかった。
つまり、本当の醍醐の花見を味わっていなかったのだ。
これではいけないと、さっそくクラウドファンディング(※2)で資金を募り完成させたのが、「錦水亭」で
ご披露した右隻なのである。

中央に淀殿とされる貴婦人が盃を持って微笑み、当時は最先端の楽器であった三味線の音に耳を傾けている。
そして咲き誇る、「高砂」という見事な八重桜。
正座して見ると、ちょうど描かれた人々と視線が合う。
見る人がすぐに宴の世界に入れるしかけになっている。

しかし醍醐の花見を味わう仕事は、まだ終わっていない。
この屏風は右隻、左隻のペアの屏風で構成され、その左隻を再びクラウドファンディングを使ってデジタル復元する(※3)。
左隻には八角堂に座る幼い秀頼がいる。
早く、淀と秀頼のそろった花の宴を皆様に紹介する日が来るのを願っている。



長岡京「錦水亭」での賞道(平成31年3月24日)


(※1)賞道は小林泰三が主宰の、デジタル復元した日本美術を体感するワークショップ。
(※2)クラウドファンディングは、個人や団体がインターネット上で事業提案をし資金を募り、賛同した
閲覧者が募金をする仕組み。
(※3)現在、レディーフォー「ついに完結!”幻の復元国宝”の完全版をいっしょに楽しもう!」というプロジェクトで資金を募っております。何卒ご協力をお願い申し上げます。クラウドファンディングでの操作方法
など分からない場合は、小林美術科学までお問い合わせください。
メールをなさらない方は、体文協へお問い合わせください。

小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。大学卒業時に学芸員の資格を取得。2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。