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第5回 お地蔵様は魂のレスキュー隊

デジタル復元師 小林泰三

©小林美術科学

「笠地蔵」をはじめ民話でも数多く登場する「地蔵」。
庶民から親しみをこめて「お地蔵さん」と呼ばれていたが、正式には「地蔵菩薩」という。
図像としては、中国・敦煌など西域から発見された布の幡(幟のようなもの)に描かれているのが古い例として知られ、中性的な姿を留めているものもあり、興味深い。
私がデジタル復元した地蔵菩薩は、あまりにも艶めかしいお姿だった。豊かな胸と爪の伸びた指……。
イヤリングなどの身につけた装飾の効果もあって、敬虔な宗教心もふっとんでしまうほどのセクシーさだ。

日本では平安中期から地蔵信仰が盛んになった。
頭を剃った僧侶の姿をしていることからも、より身近な印象を与えていたのだろう。
しかし、道の至るところにつくられるほど庶民に愛された地蔵菩薩には、もうひとつ人気になる秘密があった。それが「地獄」と関係していたのである。
京都の矢田寺には、上下巻からなる「矢田地蔵縁起絵」という絵巻物が伝わっている。
そこには地獄に落ち、煮えたぎる鍋の中で苦しんでいる男が、救われる様子が描かれている。
彼に手を差しのべ、救っているのが地蔵菩薩なのである。
つまり、地蔵菩薩は地獄から救ってくれるレスキュー隊員なのだ。
地獄に落ちても、まだ終わりではない。まだ救いの手はお地蔵様によって、差しのべられている……。
庶民にとって、これほどうれしいことはない。
なぜなら、日々暮らしていく中で、生きていくために動物を殺して食糧を確保しなければならない(殺生は罪)し、ときには嘘をついたりして(妄語も罪)、自ずと罪が重なっていく……。
悪気がなくても罪を犯し続ける運命にあるのだ。
これでは地獄に落ちるのは間違いないと、人々は不安な気持ちを抱えたまま、毎日を暮らしていたのである。
そこでのレスキュー隊員の登場なのである。
一度は地獄に落ちてしまうのは仕方ないにしても、どうかお地蔵様、私の前に現れて、地獄から私を救い出して下さい、と強く強く願っていたのだ。

中国敦煌の地蔵菩薩のお姿を見るにつけ、庶民の心の距離感が、実に近いことが分かる。
そんな庶民の味方であった地蔵信仰は今にも伝わっていて、例えば東京・巣鴨の「とげぬき地蔵尊」には、今も参拝する人が絶えない。
「お地蔵様」は、今も私たちを救って下さっているのである。

小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。大学卒業時に学芸員の資格を取得。2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。