topics トピックスTOPICS

第4回 色はぬくもり

デジタル復元師 小林泰三

©小林美術科学

この写真は、私の母方の祖母である。
残念ながら母が中学生のころに亡くなり、私は顔さえもまったく知らなかった。
この写真も、5年前くらいに初めて見たもの。
はっきり言うと違和感があった。
母にあまり似ていないし、何かぼやけて汚れているので、遠いイメージがあり、到底肉親に対して抱く近しい想いはなかった。
それでも写真を見せることもなかった母が「色をつけてほしい」というのだから、とにかく作業を進めることにした。
私は、白黒写真をカラー化する仕事もしている。

©小林美術科学

恥ずかしながら私もそうなのだが、母もかなり色は白い。なので祖母の肌も普通に比べて色白にする。その肌が明るく映えるように、背景をさわやかな色合いにした。

私は、モノクロ写真にはカラーの情報は一切ないと解釈している。
だから彩色はあくまでも想像の世界となる。
根拠のあるところまで調査し、時代背景や流行なども考慮に入れて、細心の注意を払って彩色する、というのが現実である。
かつて「独自のプログラミングで自動的にモノクロをカラーにする」という企業が話題になったが、私が他の同業者と話しても「色のないものはない」との見解となり、それが今も当方の基準になっている。
一方で時代は進み、AI(人工知能)があらゆる写真を学習して、相応しい色を自動で選択して色付けする技術も進んでいる。
この技術は納得する上に可能性を感じているので、私も学習しながら取り入れたいと思っている。

祖母の白黒写真をカラーライズしている作業中に、途中経過を見て母は突然、「この着物思い出した、確かすみれ色っぽかった」と言ったのだった。
これなのである。白黒写真に色をさすと、急に画面が生き返り、肌には血が通う。記憶もよみがえるのである。
白黒写真にカラー情報を加えることによって、人は何か心に化学反応を起こす、つまり「カラーライズにはカラーにする以上の意味がある」。
私は仕上がった写真を見て、やはり母に似ている部分はあることに気が付いた。
肌に血色が宿るだけで、優しさが感じられるようになったのだ。
これもきっと、カラーによる化学反応に違いない。

※小林美術科学では貴重な白黒写真のカラー化を行っています。詳しくは小林美術科学のホームページ    http://kobabi.com/retouch/colorize/ まで。

小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。大学卒業時に学芸員の資格を取得。2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。