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第3回 真の姿をデジタルで

デジタル復元師 小林泰三

(図1)  ©小林美術科学

デジタル復元は、ごみ取り、整形、彩色など の作業を全てコンピューター上で行っている。
傷んでいるところや汚れをなくす「修復」だけではなく、制作された当時の色に戻す「復元」までが私の仕事である。

「檜図屏風」はその名の通り屏風なので、ジグザグに展示されていた。(図1)
※描かれてい た檜の横へ延びる大枝は、ジグザグでポキポキ折れ、見るからに窮屈な状態だった。
しかし実は、もともとは襖だったので、まずはその状態に戻してみよう。
そこで傷や絵の具の剥落を補い、屏風でついた折り目を消し、襖の枠と引き手を合成する。
もちろん、コンピューター上である。(図2)

(図2)

すると大枝が、大分まっすぐ伸びて、それだけでも巨木が大いに息づいた印象を受ける。  
次は色を復元する。
日本画の絵の具は岩絵の具で、色のついた鉱石を粒子になるまで細かくすりつぶし、膠という糊に溶いて使う。現代にも天然の岩絵の具を見ることができるが、その鮮やかさと言ったら、目に焼き付くほどである。
そんなビビッドな色彩を、緑、青とさしていくと、驚くほどのパワーが画面から出てくる。
さらに巨木が勢いを増してくる。(図3)

(図3)

迫りくる力強い絵で部屋を飾っていたとしたら、 その館の主の威厳というのも想像できるのではな いだろうか。
この襖絵が飾られていたのは八条宮邸といわれ、豊臣秀吉の猶子(跡取りとしての養子)の館だった。
実はまだ、枝が伸びきっていない。
ちょうど、 真ん中部分がまだ段差があって、流れるようにつながっていない。
これは一体どういうことか。
そこで真ん中を少しずつ離して、ちょうど滑らかになるところまで左右にずらしてみる。
すると柱が一本入るような空間が空いたので、柱を入れてみよう。

(図4)

そして今、しっかりと大枝を伸ばし、 生き生きとした色彩でよみがえった檜の巨木。(図4)
最初のジグザグの屏風だけを見ていては、その渦巻くエネルギーを十分に味わえていなかったことが分かる。
大切にされ、保護されている国宝は、 実は、真の姿を伝えていないのがほとんど。
デジタル復元の価値は、その真相を現代に届けるところにある。


※現在の「檜図屏風」は近年の修復により、真ん中で切り分けられた四曲一双の形で、ジグザクにされることなく展示されるようになっている。

小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。大学卒業時に学芸員の資格を取得。2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。