第19回 着色のできること
デジタル復元師 小林泰三
今回の記事は、もしかしたら読んだことがある人もいるかもしれない。
というのも私の会社「小林美術科学」のホームページの記事になっているからである。
白黒写真のカラー化の事例を紹介しているコーナーにある。
思いっきり手抜きではないか、という声も聞こえるかもしれないが、今のタイミングで、どうしても振り返ってみたかった。
なぜなら、テーマが「黒人差別」だからである。そう、アメリカで時に再燃し、今も燃え盛っている。
以下が記事からの抜粋。(サイトの記事は、もう少し幅広く話している)
ほぼ1年ぶりの「色再アルバム」の更新です(2018年9月11日)。
どうしても今、他の仕事を中断してでもしなければいけないと思って必死にやりました。
この写真のカラーライズです。(図1)

でも、別に仕事として受注したわけではありません。
今日、色々と感じ入ることがあって、自分のためにやりました。
写っているのはドロシー・カウンツ(Dorothy Counts)。
1957年に、白人しか通っていなかった高校に入学したアメリカ初の黒人女子高生です。
どんなに奇異な目で見られていたか、嘲笑されていたかは、後ろの人たちの様子を見て明らかです。
実際にひどい迫害を受け、「このままでは生命が保証できない」と、4日目に退学することになります。
こういう時のカラーライズはクリック一つでなく、一つ一つを吟味して慎重に、気持ちを込めてやるのがいいと私は感じています。丁寧に一つ一つ復元していくとき、その人たちの気持ちを想像したり、当時の時代の空気を考えたりしながら進めます。
復元していくと、背景にいるのは子供たちだけでないことに気づきました。
大人も見られます。想像よりも厳しい世界なのが分かってきました。
私が復元した画像です。(図2)

ご覧いただいている皆さんに感想は委ねます。
今日私が引っかかっているのは、実はカラーライズということではないのかもしれないからです。
最近、世の中から「慎重さ」「謙虚さ」「畏怖」などがなくなってきていることが心配です。
思ったことをすぐに発信して、それにすぐに反応して、また反応して拡大して……いつ反省するのでしょう。
私はいつも立ち止まって反省ばかりです。
次の画像を発見して、早速、反省させられました。(図3)

見事です。負けました。
欧米の方がカラー化したのではないでしょうか。
感覚がやはり違います。
空気がドライなのが分かります。
私の方は、なぜか湿気があります。
ホントに不思議です。
コダクロームと富士フィルムの差があるようで、面白いですね。
変な形で文章をしめくくっているなぁと感じながら、読み返している今である。
1957年の白黒写真から、2020年のユーチューブに投稿される動画に、どれほどまでの差あるというのか。
ただただ驚くしかない。
小林泰三・こばやしたいぞう
1966年、東京生まれ。
大学卒業時に学芸員の資格を取得。
2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。
著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。