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第16回 昔の対処法に学ぶ

デジタル復元師 小林泰三

©小林美術科学

新型コロナウイルスの蔓延で、世界中が大変なことになっている。
毎日の行動が制限され、店頭からはトイレットペーパーや備蓄品が消え、株価が暴落……。
私たちの世代では今まで体験したことのない事態に、世界が不安な毎日を過ごしている。

それでも情報化社会である。
原因は新型コロナウイルスと判明し、刻々とその広がりがニュースで流れ、その対策が打ち出され、なんとか対処しようとしている。
ワケが分かっているのとそうでないのとでは、心の持ちよう、覚悟が違ってくる。それだけでもいい方に考えたい。

昔は、ウイルスなどと言う存在は知られるはずもなく、ワケも分からず疫病に倒れ、死んでいくことに、なんらかの理由を求めた。
それが前回の絵巻物「祇園御霊会」でご紹介した通り、「荒ぶる神様がお怒りになっている」ということなのである。
その神のお気持ちを鎮めるために舞などを奉納する祭りを敢行する。
科学的ではないが、精神衛生上では、立派な対処方である。
祭りによって生きる力を復活させ、困難な現状に立ち向かい対処しているのだ。
ちなみに、その対処法が科学的に正しいかどうかの話ではない。
未知の災難に対して、どう気持ちを鼓舞して戦い続けるか、あるいは希望を捨てずに生き続けるか、精神衛生上の話である。

このように疫病というものは昔の人にとってはより厄介なもので、目の前に起こっている余りにも厳しい現実をどうにかして理解しようとしていた。それが絵物語のようになったとして、今の私たちがどうして笑い飛ばすことができるだろう。

いい作例がある。「辟邪絵(へきじゃえ)」と言う。
まるでウルトラマンの怪獣図鑑のように、グロテスクな伝説のキャラクターが紹介されている絵巻物である。
このキャラクターは、どれも正義の味方である。
ご覧いただいているのは、「天刑星(てんけいせい)、疫鬼を食らう」という題名。
天刑星は紫微斗数(しびとすう)という中国の星を使った占いに登場し、孤独を象徴するとされる一方で、医学も司るとされている。
善神の天刑星は、人々を疫病で苦しめている牛頭天王をむんずとつかんで食らおうとしている。
宙ぶらりんとなっているのが牛頭天王である。
この牛頭天王が実は祇園祭での主役、夏になると今日の人々を苦しめている疫病の張本人なのである。

牛頭天王の分かりにくい顔を復元してみた。
なんとも情けない顔が出てきた。
疫病が徹底的にこらしめられている様子を、私たちはばかばかしい絵空事のように見るだろうか。
当時の人々の疫病をやっつけたい気持ちは、今正に私たちの心情である。

その後、牛頭天王は、不思議な展開を遂げる。
疫病をもたらす厄介者だった牛頭天王が、なぜかいい神として人々の信仰を集め、大きく浸透していったのである。
その発展の中で、牛頭天王は素戔嗚尊と同一視され、さらに発展していく。
疫病がついに人々を支配してしまったということだろうか。
そんなことがあってはならない、と、今はそれだけを祈るばかりである。




  小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。
大学卒業時に学芸員の資格を取得。
2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。
著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。