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第15回 祭りの原形

デジタル復元師 小林泰三

©小林美術科学













復元作業をしなくとも、発見というものはあるもので、今回は一番最近の発見をご紹介したい。
それは「年中行事絵巻 祇園御霊会」を私のワークショップ「賞道のすすめ」で解説をするため、改めて調べ直しているときのことである。
祇園御霊会とは、今も京都で開かれる祇園祭のことで、この絵巻には始まったばかりの姿が描き記され、とても貴重な作品のはずだった。
実は、この絵巻は現代に伝わっていない。
ただ、まだ失われる前にスケッチをしたものがあり、その存在、内容は明らかになっている。
しかしそれはスケッチなので彩色がされておらず、私がデジタル復元することになったのである。
祇園祭を描いたこの絵巻物、そこには今は祭りのシンボルである山鉾は登場しない。
山車が登場するのは、室町時代で、この絵巻物は平安時代末期に製作されている。
それこそ、祭りの原型を留めているのだ。

なぜこの絵巻を調べ直したかと言うと、奈良での講演だったことにある。
実は、奈良の春日大社の「おん祭」の始まった頃と、この絵巻物が描かれた時期が同じであり、一度「おん祭」を見た私は、それが山鉾が登場する以前の、絵巻物の祇園祭にそっくりなのに驚いた。お祭りの趣旨も同じ。
つまりは、祀られている神の荒ぶる魂をお慰めするために、田楽や巫女や雅楽が舞踊するのである。










まずは神社から御旅所という儀式会場にお連れするパレードを行う。これも両方の共通点である。
絵巻物に描かれているパレードの順番は田楽、道の護衛、巫女、散手、獅子舞、そしてに神の乗っている神輿と続いている。
作品「祇園御霊会」は、演じる者たちが長い行列になって、御旅所まで神様をお連れする様子なのである。
この行列を絵巻物で鑑賞する意味は大きい。
展覧会で展示となると、全面に開いて行列を丸々見せることになるが、ここでは手を繰り足してだんだんと見ていくことになる。
これが本来の絵巻物の使い方だ。
すると、はじめはおどけた田楽連中が現れ、その次に落馬をする警護の者、そして厳かに巫女が現れ……。
そう、まるで見物者の前を通り過ぎるかのように絵が展開するのである。

長年鑑賞していて、何となく気にしてないようにしてでも引っかかっている部分があった。
それは「道の護衛」である。これだけが演者ではないからだ。
祭りを盛り上げる者でなく、警護の者をなぜ織り交ぜたのか。
そこで改めて「おん祭」を調べてみると、同じ格好をした者が馬に乗っている写真が見つかった。
彼らは「競馬」をしていた。なんと、警備の者たちではなく、やはり「競馬」を奉納する者たちだったのだ。
これで私は大いに納得したのだった。
この発見を奈良の人にしたところ、大いに楽しんでいただけた一方で、「(新しいと思っていた)祇園祭によって今も続く『おん祭』がちゃんと伝わっていることが証明されるなんて、奈良の人は悔しく思うかも」とつぶやいたのが印象的だった。




  小林泰三・こばやしたいぞう

1966年、東京生まれ。
大学卒業時に学芸員の資格を取得。
2004年小林美術科学を設立し、本格的にデジタル復元の活動を開始。
著作に「誤解だらけの日本美術」(光文社新書)など。