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531. 金色に縁どられる八方ヶ原の満月をイメージするマドレーヌ

東北本線の片岡駅で降りて徒歩30秒、木村屋があった。
矢板は日光北街道と奥州街道が交差するところで、古くから栄えた町である。木村屋は小野助三郎の代に材木商を始めたが、鉄道が開通した途端、番頭にそっくり金銭を持ち逃げされ倒産。そこで息子の謙次(明治45年生まれ)が一念発起して菓子屋を始めたのだという。

木村屋の銘菓「八方の月」は、2代目小野修一が昭和42年に創作した。矢板の名所八方ヶ原から見た満月をイメージしたという。八方ヶ原は日光国立公園の一部で、ツツジの名所で知られる。ここはかつて軍馬の放牧場で、馬に草木を食べつくされ、毒のあるツツジだけが残った。
その結果ツツジの一大群落地となった。

5月上旬からアカヤシオ、トウゴクミツバツツジが咲く。続いてシロヤシオ、ヤマツツジが咲き出す。
シロヤシオは「八方の貴婦人」と呼ばれ、愛子内親王のおしるしの花でもある。
20万株もあるというレンゲツツジは6月に入ってから咲き出す。
ここは夜間、周辺に街灯は一つもなく、満天の星空を堪能でき、天体観測愛好家たちにはつとに有名な
場所である。

2代目修一は栃木の菓子店で和洋菓子を修業。
帰ってすぐの昭和42年(1967)に「八方の月」を創作する。
独創的なのは、フリーズドライしたコーヒーを白餡と混ぜたところ。
これをマドレーヌで包み満月をイメージする。
マドレーヌの生地には、矢板高原山で採取されるとち蜜を2割と、アカシア蜜8割のブレンドハチミツを使う。このほか卵・牛乳・バターなども地元の食材にこだわる。

現在は3代目小野通弘さん(昭和45年生まれ)がこの銘菓〈八方の月〉を丁寧に作り続けている。
しっとり感に満ちたマドレーヌ生地とコーヒー餡が口の中でしだいに溶け合う味わいは、通弘さんの
静かで誇張がない人柄と重なる。
〈八方の月〉は名月だ。

 

木村屋 
栃木県矢板市片岡2099

文・八木洋行  写真・木村屋提供