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529. 大ぶりで素朴で旨いぞ

栃木県鹿沼市に〈双体道祖神まんじゅう〉という、民俗学者がネーミングしたような饅頭があった。
道祖神は村内に侵入しようとする悪霊や災いを遮り、村境や道の辻に祀られ、古くは「塞の神」とも呼ばれていた。時代にそって村内安全・道路安全・男女良縁・子孫繁栄・幼児保護というような信仰を寄せられてきた。

双体道祖神の分布域は、東に長野県・新潟県・群馬県・埼玉県・神奈川県・山梨県・静岡県、西に鳥取県・島根県というように限定された地域にある。
ところが栃木県にもあると聞いて驚いた。

〈双体道祖神まんじゅう〉を創案された御菓子司小磯の3代目小磯郁夫さん(昭和37年生まれ)によると、栃木県内には、ここ鹿沼市粕尾地区(旧粟野町)のほかに、鬼怒川上流の川治と県北の旧喜連川町、高根沢町にも点在するという。
その中でも粕尾地区は、思川に沿って9体が祀られる県内一の点在地域。
ならばと、小磯さんは、黒糖を混ぜた生地でこし餡を包んだ饅頭と、竹炭を混ぜた真っ黒な生地に、手亡豆の白餡と鹿の子豆を包むという2種類の饅頭を創案し、〈双体道祖神まんじゅう〉とネーミングした。

さっそく蒸かしたてをいただく。
まず見た目が大きい。いかにも田舎の饅頭だと主張する風格というか、自信に満ちている。
そして、なんだこの皮の艶とムチッとした食感は!
これは生地にする薄力粉にデンプンを混ぜ、一晩寝かせるらしい。

双体道祖神は、盃と酒瓶を持ち抱き合う「祝言型」と、肩を抱き手を握り合う「握手型」、互いに向き合い両手で抱き合う「歓喜天型」があるが、包装紙には上粕尾の握手型「栃原道祖神」をモデルにした。
ところが郁夫さんは、まだ一度もその道祖神を見に行ったことがないという。これは仰天だ。

帰ってから10日ほどして電話してみた。
「どうですか、もう道祖神へお参りしましたか?」と聞くと、
「行こう行こうと思っているんですけどねえ……ははは」。
少年のような笑顔で駅前に立って迎えてくれた郁夫さんを思い出した。

 

御菓子司 小磯 
栃木県鹿沼市口粟野1646

文・写真(人物)/八木洋行  写真(菓子)/黒住政雄[カクタスデザイン]