topics トピックスTOPICS

551 狸の置物のまち信楽に、茶人たちが愛でた花入「蹲」をうつす銘菓があった

©紫香楽製菓本舗
駅前の高さ約5メートルの大狸


NHK連続テレビ小説「スカーレット」は、滋賀県の南端に位置する甲賀市信楽町が舞台だった。狸の置物で知られる信楽焼の里だ。
ここに「うずくまる」という銘菓があると聞き出かけた。
JR草津線と信楽高原鐡道を乗り継ぎ、終着駅信楽で降りると、人の3倍はあろうかという狸の焼き物がマスク姿で迎えてくれた。駅で自転車を借りて、窯元の並ぶ小道をサイクリングしながら店を目指す。

町には200以上の窯元がある。「スカーレット」でも描かれていたが、信楽は全国随一の火鉢の生産地だったが、石油ストーブの出現で廃れ、昭和30年代から植木鉢に移行。しかし、それもプラスチック製品が出回ると廃れ、今度は狸の置物に主力を注ぐようになったという。



紫香楽製菓本舗・本店茶寮は国道沿いにあった。創業は昭和47年と意外に若い。
創業者の上田悦男さん(昭和17年生まれ)は生粋の信楽人。
次男坊の上田さんは高校卒業後、独立を考え京都のタクシー会社に就職。
やがて大手八ツ橋メーカーに勤める章子さんと知り合い結婚。
章子さんの姉が大手八ツ橋メーカーの社長夫人だった縁で、上田さんは同メーカーに勤めることにする。
ここでじっくり5年間生八ツ橋の製造技術を習得。
30歳で必ず独立したいと考えていたとき、京都の麹屋が開発した酵素を使うと餅が固くならないことに気づき、この酵素を使って八ツ橋の下請け工場の許可を取り付け、故郷の信楽に工場を建設して独立。
さてここからだ、どうしても焼き物の町にふさわしい菓子を作りたい…と思いを巡らしていると「蹲(うずくまる)」が浮かんだ。

蹲の花入れ

信楽は日本六古窯に数えられる焼き物の産地だった。
室町時代に信楽で焼かれた籾種や油を入れる小壺に「侘び」をみた茶人たちは、その姿が人がうずくまっているようだ…と、「蹲」と呼び花入れとして珍重した。
それを菓子にできないかと、生八ツ橋の三角の生地を丸めあげるとイイ感じだった。
地元朝宮茶の粉末を生地に混ぜ、粒餡を包んだ。
現代陶芸家笹山忠保に見せると「まるで蹲じゃないか…」とお墨付きをいただき発売に踏み切った。
売れた。平成3年に信楽で開催された世界陶芸祭には7カ所に店舗を拡大するほどだった。
ところが開催中に信楽高原鐡道の衝突事故で42名の尊い命が失われ、600余名が負傷する大事故で客足は途絶え火が消えた。
「スカーレットで復活するかと思いきや、コロナ禍でまた客足が途絶える。どうも信楽はなにかやるとダメになるんだねえ…。昔の紫香楽宮も途中で終わっているからかねえ…」と上田さんはぼやく。


わたしが静岡県藤枝市生まれと言うと、上田さんはサッカー選手で全国大会に出場したこともあり、しばらくサッカーの話で盛り上がった。メキシコ五輪でアジア人初の得点王に輝いた釜本邦茂選手と高校時代に同じセンターフォワード同士で戦ったこともあるという。紫香楽製菓本舗さんファイト、ファイト。





紫香楽製菓本舗 
滋賀県甲賀市信楽町長野584-2

文・写真 八木洋行