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548 北国街道に幻の丸い食パンを見つけた

三代目西村豊弘さん

琵琶湖の湖北は木之本町に、刻んだ沢庵をマヨネーズでサンドする「サラダパン」という面白いパンがあると聞き出かけた。
なんでも、湖北近在でこの「サラダパン」を知らない者はいないというからワクワク感も大きい。

JR北陸本線木ノ本駅で降りると、「つるやパン」と書いたライトバンが止まっており、私を見るなり「遠くからご苦労さまです」と笑顔で迎えてくださったのは、3代目西村豊弘さん(昭和51年生まれ)だった。
パンの匂いのするライトバンで、地蔵坂と呼ぶ緩やかな坂の商店街を上って行くと、卯建(うだつ)をあげた古風な商家が軒を並べる北国街道にぶつかる。

ここ木之本宿には、室町時代から昭和初期まで、牛馬市が年に2回立ち、山内一豊が妻千代の内助の功により名馬鏡栗毛を手に入れたのもこの市だと看板に記されてある。

さて、ほんの2分で到着。「つるやパン」は木之本宿の真ん中にある本陣の前にあった。
昭和26年(1951)の創業で、店名は近くに旅館の「かめや」があったからだという。

さっそく「サラダパン」をいただく。
そうだよ、これだよ、これ。小学校の時に食べたコッペパンの、ほんのり甘い香りと食味。
しかもコリコリ沢庵の歯ごたえと、マヨネーズの取り合わせが田舎美味い。
「もっと上品で美味いパンならすぐ材料のレベルを上げればできるのですが、この絶妙な物足りなさを維持したいんです」
と語る。うーん、わかる…。

創業者西村秀敏(大正12年生まれ)の妻智恵子(昭和4年生まれ)が、この「サラダパン」を発案したのは昭和35年だった。
最初はキャベツを刻んで挟んだが足が速い。そこですぐ沢庵に切り替えたのだという。

「地元では、丸い食パンにマヨネーズをひと塗りして魚肉ハムを挟んだサンドウィッチの方が人気なんです」と、3代目。
魚肉ハムの香りとこのパンの取り合わせはやっぱり田舎美味い。
こちらも絶妙にB級にとどまる覚悟が伝わる。

「日本へ最初に入ってきた食パンは丸型なんです。丸いと火の通りがよくしっとり焼けるんです。ところが四角の方が積み重ねられる。大量生産時代に入り、全国へ流通させる大手が現れると丸い食パンは完全に姿を消しました。しかし家では、丸い食パンにこだわり続けてきました。この〈まるい食パンラスク〉も丸い食パンで作っています」

直径9センチ弱、厚み1センチの〈まるい食パンラスク〉をいただく。
噛み砕ける食感が止められない…これはけっこうオシャレ美味い。
〈まるい食パンラスク〉のロゴは一流デザイナーに発注したという。

コロナ禍のさ中、1人もリストラすることなく、創業者のアイディア力と都会感覚と田舎感覚を、うまく交差させた3代目の編集工学力が、この店を担っていると感じた。

つるやパンはみな手づくり作業
卯建(うだつ)を上げる木之本宿の民家











つるやパン 
滋賀県長浜市木之本町木之本1105

文・写真 八木洋行