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527. 今市の貴重な郷土菓子

日光市今市に〈柿餅〉という、干し柿と米粉を蒸して搗いた素朴な餅菓子がある。東部鬼怒川線大谷向(だいやむこう)駅近く、西会津街道にその〈柿餅〉を製造販売する久保田屋製菓店を訪ねた。

大正末に創業され、現在4代目の久保田武夫さん(昭和56年生まれ)と、母親の洋子さん(昭和19年生まれ)の二人で頑張っている。

〈柿餅〉はどういう訳か、日光市も今市だけに伝わるもので、正月近くなると各家庭で作られてきた。冬期の度にやって来た、福島県会津の茅屋根葺きの職人葺師(フキシ)たちが伝えたという。ところが、「肝心の会津では柿餅を作っていないですって」と洋子さん。「マタギの人たちが携帯食に持って行ったとか聞いたけど」と4代目。すると洋子さんが、「マタギの人たちは猟を始めたら火を使えないからねえー」と付け足す。

「少し焼いたものが美味しいから」と出された。たしかに、はんなりとしてほのかな柿の味が嬉しい美味しさだ。洋子さんが「このままでも美味しい」というので、火を通さないまま食べてみる。ああ……噛みしめる毎にまた柿の控えめな甘みが口の中に広がる。マタギたちは雪の山で獲物を追いながら、この〈柿餅〉を静かに噛みしめたのだろうと想像した。

「うるち米で搗いた餅は、冷えても固くならないが、もち米では冷えるとカチカチになってしまい、火を通さなければとても食べられない。だから、マタギたちはうるち米の柿餅を携帯したはず」と、4代目が自信をもって語る。

干し柿にする渋柿は、昔このあたりでは「ハチヤカキ」と、丸く小粒の「オカガキ」を干していた。米粉を水で練ってから干し柿と一緒に30分ほど蒸す。これを杵と臼で搗き、棒状に丸めて完成。これが今市の一般的な作り方らしい。いたって簡単なものだが、水加減と干し柿の量が味の決め手になるようだ。

今ではだんだん家庭で作らなくなり、久保田屋製菓店に干し柿を持ち込み、米粉との割合を「我が家のやり方で作ってほしい」という客もあるという。久保田屋製菓店では、米粉1キロに対して200グラムの割合で搗く。
3年前から地元の干し柿が少なくなり、長野県の市田柿を使うようになったのが少し残念だ。

 

久保田屋製菓店
日光市今市1430-27

文・写真 八木洋行