topics トピックスTOPICS

542. 白鳥と重なるイメージの和洋折衷の味わい

酒田の大火を覚えているだろうか。
昭和51年(1976)10月29日午後5時40分、映画館から出火し、雨の中、西高東低の気圧配置の西風、風速25メートルを超える強風にあおられて燃え広がり、翌日午前5時に鎮火。繁華街の4分の1を焼失した。

明治17年(1884)創業という老舗、菓匠 菊池も工場と店をすっかり焼失した。
現在の当主、菊池武彦6代目幸助(初代幸助以来、代々幸助を名乗る。
昭和52年生まれ)さんは、まだ生まれていなかった。
学生だった5代目は、東京でテレビの中に大火を見ていたという。

当時の当主4代目幸助は、この難局をどう乗り越えるか思案。
そこに菓子製造機メーカーがアルミで包む焼き菓子機のセールスにやって来た。“即”4代目は購入。
翌年昭和52年には、カステラ生地で小豆餡とコーヒー餡を包む2種類を創案、「酒田むすめ」と命名した。

アルミを剥がすと色白細面の娘が顔を出すという嗜好だ。受けた。
和洋折衷の味と、なにより「酒田むすめ」というネーミングも時代に乗った。
平成10年には焼き芋餡の「酒田むすめ」も登場。
これも焼き芋ブームを先取りしている。伝統に縛られないで時代を見据えた感覚が冴えているのだ。  

本間美術館庭園

6代目は、淡々として自信に満ちた人だった。
こういう感覚の人は酒田という、江戸時代に北前船が出入りして、たえず都や江戸の最新情報が入って来る町が練り上げたものかと思った。
帰り道、駅近くの本間美術館に寄り、北前船が寄港した先々の名石を集めた庭園を見てまわり、酒田駅に急ぐ。
新潟行きの車窓から、田園の中に落穂ひろいをする白鳥の群れをいくつもいくつも見た。
雪が降ったらあの白鳥たちはどこへ行くのだろうか……と、白鳥の群れに見とれながら「酒田むすめ」をいただく。

菓匠 菊池 
酒田市二番町8-19

文・写真 八木洋行