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539. 月の山で朝の日の光を待つ芭蕉に捧げたい饅頭

酒田は最上川の河口にある。
「暑き日を海に入れたり最上川」と詠った芭蕉は、羽黒山と月山で月を詠み、酒田で海に沈む夕日を眺め、暑かった一日を最上川は海に流し込んでいると詠んだ。
しかし、初案は「涼しさや海に入れたる最上川」だった。
海に流れ入る最上川を眺めていると、なんとも涼しい感じがしたというのだ。
それがまったく反対の「暑き日」に入れ替わった。
ここには月山を意識しており、涼しさという単なる自分の体表感覚に終始しては最上川のスケールが台無しになる……と芭蕉は考えたのだろうか。
月と太陽という宇宙を仰ぐように詠みなおした。

その酒田に、「山吹まんじゅう」という創業明治9年、酒田一老舗の東根菓子舗の銘菓がある。
山吹は黄金の小判のことでもある。小判型の饅頭と思いきや、日本海に沈む太陽……いや、月山の月を想起させる饅頭だった。

5代目東根俊治さん(昭和30年生まれ)によると、山吹まんじゅうは3代目の末松が昭和3年に創案したのだという。
〈むき餡〉という、小豆の皮を取り除いてから煮るという、実に手間のかかる餡を小麦粉と全卵を混ぜて練り上げ、隠し味に日本酒を入れた生地で包み蒸かした淡い山吹色の饅頭で、仕上げに天焼きして、満月の照りを想起させている。
たっぷりの餡は甘みがゆっくり広がる控えめな上品さがある。

酒田は北前船が出入りした港町で、財を成した豪商たちは生け花や茶の湯をたしなみ、京の都文化を直接取り入れていた。
そのためには金銭を惜しまなかったという。
それ故か、京都と同じ言葉がたくさんある。ちなみに、京言葉の「おおきに」(ありがとう)は「おおぎ」、「しなこい」(しなやか)は「しなこい・すなこい」、「つるつる」(うどん・そうめん)は「つるつる」などもそのひとつだ。

5代目はバスケット選手だった。6大学リーグ優勝を始め、福岡国体では山形県を優勝に導いた。
聞かなければ想像できないほど温和な柔らかな方で、向き合っていると京男が目の前にいらっしゃるという印象だった。

東根菓子舗 
酒田市中央西町1-16

文・写真 八木洋行